ヲタク的トランスジェンダーについて その1。

ゆびさきミルクティー 1 (ジェッツコミックス)

ゆびさきミルクティー 1 (ジェッツコミックス)

 女装を趣味とする少年・由紀(ヨシノリ)と、年下の幼馴染み、衝動的に惹かれた(?)クラスメートのどろどろの三角関係……という見方もできるが、実のところ良くできた「性別越境もの」である。それも安易に性行為になだれ込むことの多い青年誌でありながら。
 美しくなること、別の自分(ユキ)への誘惑から始めた女装と、姉を含む周辺の女性によってふとした弾みで浮上する男性としての生物的衝動や思考の狭間で、とまどい、あるいは自己嫌悪と葛藤する物語。青年誌ゆえのきわどさとご都合主義、性を暗示させる描写を考慮に入れても、やはり良くできていると思う。

 個人的に印象深いのは、由紀(男時)の悪友である亘がユキに惹かれる一連の場面。男の持つ、貪欲とさえいえる異性への強い志向にうんざりする由紀のシーンの直後であることからも、亘の心理が際だっていると思う。
 深読みかもしれないが、女性の「読め無さ」、具体的には「グループで行動し、裏と表が極端、行動の秘匿性陰湿性」といった要素への不信あるいは恐怖から、そういった性質を持たないと感じた(潜在的には「女性とは異なる」と判断しているのに!)ユキに惹かれる亘の心情は実に切実な物だと考えるのだ(エスカレート、あるいはちょっと踏み外すと二次コンまっしぐらだが。なお、類似事例として吉住渉ミントな僕ら』の佐々)。単純に由紀の素材・技量の問題と読むのは、少しもったいないと思う。

 連載が現在進行形故に、とりあえずこのへんで。



 ……女装もの、という点でもうひとつ。
 実は私が期待している年明けの新作に『処女はお姉さまに恋してる』(おとめはぼくにこいしてる)というのがある。
 祖父の遺言で(『マリみて的』あるいは『笑う大天使』的でソフト百合系)女子校に放り込まれる主人公、というべたべたな物語である。体験版(2話分プレイ可能)の印象からになるが、主人公はお約束通り「女装がばれないほどの素材」であり、外見的には完全に女性として通学し、寮内(少人数だからばれる危険も少ない)で生活することになる。そしてこの局面で主人公を縛るのはやはり細々とした行動についてのジェンダー的観念に他ならない。
 男性である主人公が、機密性およびアイデンティティ同一性の問題から、自己を男性であると規定するためにはいきおい「マッチョ的男性観」にシフトせざるを得ない故に、「女性観」に基づく行動や、結果として女性的であるとされる行動を反射的に行った場合の葛藤がギャグの一環として描かれるのである。
 で、当たり前であるがメディアの特質上、主人公はどうあっても「男性でなければならない」。さて、どういうさじ加減でやってくれるのか、と全く一般プレイヤーとは異なる期待をしつつ。


 追記:トランスジェンダー、両性具有的な「物語上の素材」については、人物である限り「キャラクター」カテゴリに送るが、その1と書いていることから解るように、シーンやシナリオ全体となると「覚え書き」カテゴリで書く予定。