はたして誰が読むのだろうか?

黒猫さんとメガネくんの初恋同盟 (つばさ文庫(角川))

黒猫さんとメガネくんの初恋同盟 (つばさ文庫(角川))

 はたして、いま児童文学でこの手のものを誰が読むというのだろうか。精神論と説教と無鉄砲な冒険について行けない、あるいは無謀な行動を否定する価値観を内面化してしまったよい子の男の子を受け止める児童文学が久しく存在しなかった間に、男の子は背伸びしてラノベか技術書へ行ってしまったのではないだろうか、と思わずにはいられなかった。

 珍しくストレートに「いい話」だったのが不満と言えば不満。いや、どうしようもないすれ違いは苦いのだけれど、本筋自体はすごく「いい話」なんだよね……。

 ヒロインがこんなにゲスくていいのかというのと、あまりにいろいろ欠落しすぎててやばい。だが最後のヤルタ会談だけはイイ緊迫感だった。それはそれとして『恋する鬼門のプロトコル』まだかよ。

ひとつ火の粉の雪の中 (新潮文庫nex)

ひとつ火の粉の雪の中 (新潮文庫nex)

 ああ、これではシリーズ化しにくいだろう。
 一方で、『ポートタウン・ブルース』などと比較して考えると、富士見初期の目指したモノが「ソノラマ文庫の路線」だったのだなということがひしひしと伝わってくる。日本では数少ない、ファンタジーや伝奇やSFを堂々と出せる媒体であったソノラマ文庫、そのチャンネル増加と裾野の拡大を狙っていたことが作品からも伺えた。だからこそ、『スレイヤーズ!』は鬼っ子として登場し、しかし主流をつかみ取ったのが皮肉と言わざるを得ない。