家とは監獄である。

 『断章のグリム』のスピンアウト。しかし本編未読でも何の問題もない。
 そして、あえて言おう。これは少女小説だ。ただし、見た目と財産だけはある暴君に従属依存することで緩慢な滅びの道を歩む話でも、才能や見た目を武器にのし上がる話でもない。ただひたすらに家、親、家族という束縛にあらがい、無残に散っていく少女たちの話だ。怪物にもなれなかった少女たちの物語だ。
 『断章のグリム』読者なら8巻「金の卵を産むめんどり」の最後の章を思い出せばいい。あのコンセプトで一冊できあがりました、というのがわかりやすい。あるいは、桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』他の初期作品や、若木未生『アーケイディア』を思い出すかもしれない。つまりは、逃げ場のない少女たちのそういう話だ。かといって読者を女性に限定しているわけではない。実家に縛られた男性読者、とりわけ「いい子だった」「普通の子だった」男性読者にはまったく人ごとではないものとして迫り来る。普通の子、いい子を内面化した子を題材とし、その意味ではまさしく現代的なYA小説*1といってもいい。

 童話をアレンジしているところは『断章のグリム』と同じだが、本作は家族という鎖に絡めてアレンジしたコンセプト連作。シンデレラ、ヘンゼルとグレーテルは本編と同じ童話だが、アレンジの仕方で別物になっているのも本編読者には興味深い。

 個人的には、一話はどうしても『アーケイディア』を思い出してしまい、いまいち乗れなかったのだが、二話がもう見事にストライク。おそらく一話を読み終わった時点でコンセプトに気づいた読者や、家という鎖に思うところのある人は、二話は人物が揃った瞬間に展開が読めてしまうと思う。だがそれでも、私はこういう娘が大好きである*2
 それはそれとして、二巻が出るなら期待したい。

*1:児童文学の視座から言えば、『ぼくらは海へ』以降の系譜だろう。この観点からは「ぼくらシリーズ」の少年は時代錯誤であるといってしまってもいいと俺は思っている。

*2:常連さんには「またか!」だろうがw