感情論の上限下限
まだ法学の面白さがわかってなかった頃、感情論剥き出しだった俺は刑訴がとことん苦手だった。
のちに社会学や歴史学に関わる感情論(すべてが感情論だと言うつもりはない)にうんざりしながら刑事法学のドライな世界を懐かしく振り返ることになるなんてまったく思ってなかった。
罪刑法定主義も遡及法禁止も既判力も相当因果関係の切断も客観的帰属論も最高法規も国民主権も三権分立も考慮しないのが当たり前であるかのような世界では、SAN値がいくらあっても足りやしない。私にとって刑事法学は「思考の限界になりうる枷」であると同時に「こめかみを撃ち抜くためのもの」なのだろうかと思う時がある。法学するには血の気が多すぎて、けれど規範を踏み越えるほど悪党でもなかった。ということでもあろうが。
- 作者: 中山研一,松宮孝明,浅田和茂
- 出版社/メーカー: 成文堂
- 発売日: 2009/06
- メディア: 単行本
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3巻の主題は構成要件、違法性、責任。刑法教科書の上では序盤に置かれているような項目だが、そこにある議論の深さは既刊で扱われた共犯や未遂を大きく上回る。読み切るにはまだまだ「修行が足りない」……って共犯論の時も思ったなあorz
いつもながらの「重箱の隅を楊枝どころか歯医者のドリルでガリゴリやりながら三者三様の研究会激論ライヴ」。ただこのライヴ感こそこのシリーズの一番面白いところである一方で、討論がヒートアップしてくるとそのオフェンス側論者に丸め込まれそうになっていくという罠もある。討論のなかで通説の抱えた矛盾や欺瞞を指摘し、それではダメだと主張する姿は想定されるケースも含めてわかりやすく、「読者の側でもそれは何か変だと思う」ことを代弁しているようで、どことなくガンダムを彷彿とさせる。
「読者の側でもそれは何か変だと思う」ことをいかに上手く語るかが、読者に対して同意を取り付け、また説教臭くならない手法なのかもなあと、ついラノベやアニメ等とも比較してしまう次第。