ポストバブルドラマと高齢化社会と二次元人

例によって脊髄反射日記なので真に受けないように。
恋愛で痛い目見なくても二次元へ逝く下地は簡単に出来上がってしまうんだという話、上野タイトル見ればだいたいの内容はわかるだろう。
それでも見たいなら↓。
「萌え」がいつの間にか三次元での防衛反応と連結して「喪え」になってしまってから1年以上がたった。もちろん、その指摘と論点自体は正論であり、現実の恋愛で痛い目にあって二次元へとやってきた勢力は確実に存在する。
しかし、である。
以前『電/波男』の感想リンクのどこかで見た話だが、「最初から二次元という選択肢を選ぶ世代」、つまり三次元での恋愛を経験する、あるいはその必要性を最初から否定した世代へと、二次元男の主力は移行しているのではないかという言説もある。高校生活をときメモ内暦*1と符合させた世代が今は25〜28歳である。少なくとも我々の世代から下に向けても既に10年の幅がある。
そして、我々より下の世代において思春期は、『電/波男』や『萌/え/る男』が説いたバブル的影響の対極をメディアが垂れ流した時期と重なる。ポストバブル期?、メディアが何を煽っていたか、そしてその影響が何処に出ていたかを考えなければ、我々以後の世代における二次元は想定できないのではないかと私は思うのだ。


90年代後半〜2000年にかけて、メディア、特にドラマは退廃的な方向へと推移を続けていたと言っていい。バブルが弾け、そのゆるんだタガだけはそのままに、これまではそれなりに護持されてきたモラルも秩序も無意味なものとしてかなぐり捨てた、自己中心的な発想へとシフトしていった。インモラルなドラマの数々、修羅スレでも時々ネタになる「ストーカードラマ」、あるいは失楽園、援交。本来思春期前期の少年少女が自宅にいない時間帯を占拠していた昼メロ的な退廃と倒錯は9時台10時台へと舞台を移し、そこに子どもの就寝時間を遅らせる「塾」という存在が符合する。さらにいえば、それまでアニメの再放送が行われていたような「帰宅時間」には二時間ドラマの再放送が入り込んだ。
ここにおいて、早くは小学生段階から、子どもたちは恋愛及び人間関係のド汚さをメディアによって刷り込まれているのである。地位と金のために男を籠絡し、女を口説く、そして邪魔になれば切り捨て或いは殺し埋める。それがテレビの日常として展開される。もちろん、そのインモラルな価値観を受け入れた、あるいは消化できた少年少女は好んでそれをむさぼった。しかし、元から持っていたモラルとの拒絶反応を起こした彼らはどうだろうか。恋に恋していた世代は真っ逆さまにその希望さえも粉砕される。(彼らの価値観では)「イカレた」世界が、実はマジョリティだという現実。救いの手などありはしない。逆の方向の架空世界に救いを求める以外には。
当時の少女漫画原作アニメへの怒濤をセクシャリティだけに帰結させることは、あまりに簡単で反論の余地はないように見える。しかし、その影の世界を不可視にしてはならないのではないか。


もちろん、ここにおいて「これこそメディアの悪影響である、インモラルなテレビ放送は規制すべきである」なんて言ってしまうとどっかのアホどもと同レベルに落ちてしまうので言わないが、あいにく「そぉんなババア美少女がいるかァ!」な二次元と違って、困ったことにイカレたドラマは「実証」ができてしまう。平均寿命の拡大に伴って形成された高齢化社会という時代は、子どもたちの「認識・記憶が可能な『死』」を凄まじい規模で増加させてしまった。「小さい頃で記憶があんまり……」どころではない。多くの親族の『死』が子どもの思春期前後に発生する。それに伴う相続という泥沼もまた。
子どもたちは架空のものだと認識していたドラマのシーンさえ、「それは紛れもない現実だった」ことを思い知る。現実において常に「例外」だと信じていた身近な人々が「イカレた」側になっていく不気味さ。辛うじて両親に、兄弟に救われたならそれは幸いだろう。さもなくば、現実世界の何処にも安息の場など存在しないことを容赦なく突きつけられたのだから。


既に二次元人への道に「自身の恋愛での痛い目」は要件として求められていない。故に、短期的なリスク回避の視点によってご高説をブチ挙げること、すなわち「臆病な男性が〜」などという立論は、今や明後日の方向にフルオート射撃なのである。むしろ長期的リスク故に現実なんかはなっから相手にしたくないのである*2
メディアによって排除された層だけが「萌え」に走るのではない。メディアによって「壊された」層もまた、「萌え」るか「(ストイック側に)燃え」るのではないかと私は考える。


以上、「壊された」方向性のままで萌えてる男のたわごと。
「壊された」ままで萌えてるにしても、その動機にいっさいの隠蔽も妥協も求めない点が三次元メディアとの違い。愛故の行為に欲の存在は許さないし、欲故の行為にも潔さを求める。そこが俺の二次元信じるやつがジャスティス、伝説の亡者。

*1:PCE版で94-97、PS版で95-98

*2:それはもしかしたら「ある種の資本主義」の暗黒面に気づいたためなのかもしれない。ちなみにキーワード回避。