小倉秀夫弁護士ブログから二点

 http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/8474a2aefb9b2beacaf7c1c166174b6d
 大谷が年明けに発言した自己正当化に対する、小倉弁護士のコメント。

 不真性刑法屋思考の私としては、実に簡潔明瞭で好感。


 で、同じ小倉弁護士のブログより
 他人の私的領域においてその他人の意思に反して政治的表現活動を行う自由(http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/57bc4f290ff83de5297cbef66a9a8307
 「住民の不安」など「反戦」という尊い目的のためには踏みにじられてしかるべきなのか。(http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/e7baf3e69091bbc2582f9f65c31db01a
 について。以前ぼかした形で書いていた「構成要件の拡大阻止」はこの八王子支部の事件についてのこと。以下刑法系に興味のない人はさっくり流してよし。
 常連閲覧者で私が軍ヲタの片隅に脚をつっこんでいることを知っている方には意外に思われるかもしれないが、私の立場は、官舎建造物の構造から検討するに「もしかしたらこれは構成要件該当性がないのではないか」というものである。
 いや実のところ私は構成要件該当性を疑っていなかった。可罰的違法性で処理した八王子支部を「まあそんなものでしょう」とそれなりに評価していたのだ。

 しかしM教授の指摘に(曲がりなりにも不真性刑法屋が構成要件該当性判断を頭に置かないとは堕落もいいところだ私)、改めて判決文を見てみると……

 1号棟から8号棟の周囲並びに9号棟及び10号棟の周囲は,地上からの高さ1.5メートルないし1.6メートル程度の鉄製フェンスないし金網フェンスで囲まれている。1号棟から8号棟の各棟東側に間口の幅4メートルないし9メートル程度の出入口があり,その部分にはフェンスは設置されておらず,門扉の設備もない。 9号棟の南東側及び北側並びに10号棟の北東側にも出入口があり,前同様にフェンスは設置されておらず,門扉の設備もない.これらの敷地出入口部分は,敷地と外の公道が直結するような外観を呈している。なお,8号棟北側の空き地には東側の公道に面して幅員約2.4メートルの歩道が設けられており,同歩道を南に直進すると同宿舎敷地内に至るところ,当該敷地前は車道のみで歩道部分がないことから,前記歩道を南進する一般の歩行者の中には,そのまま同宿舎敷地内を通り抜けていく者もいる。
 各棟1階の階段出入口にも門扉の設備はなく,集合郵便受けが設置されている。 各室玄関ドアにも新聞受けが付いている。

2)もっとも,当時,同宿舎においては,敷地出入口の鉄製フェンス又は金網フェンス及び1号棟ないし8号棟の各1階階段出入口の掲示板に,管理者の名義で,「宿舎地域内の禁止事項」を列挙した貼り札が貼ってあり,禁止事項中には,「関係者以外,地域内に立ち入ること」,「ビラ貼り・配り等の宣伝活動」が明記されていた。
  しかしながら,出入ロフェンスの貼り札は,高さ1.5メートルから1.6メートル程度のフェンスに貼られたA3版の大きさで,さほど目に付きやすいものとはいい難い。各棟1階階段出入口掲示板の貼り札に至っては,同掲示板には催し物の案内や宿舎内の安全対策といった掲示物もあり,同掲示板は主として居住者への連絡用に用いられていることが一見して明らかといえ,通常,居住者等関係者以外の者はあまり気に留めないと思料される.禁止事項の貼り札が他の掲示物に紛れてかなり目につきにくいと思われる箇所も少なからず見受けられるところである.さらに,一部の貼り札は,平成15年12月中旬に貼られた後,平成16年2月3日までの間にはがれ落ちていた。このように,上記貼り札はそもそも注意を喚起し易いものではないが,のみならず,貼り札の内容には,禁止事項に反した場合の処置や警告については一切書かれておらず,一般のマンションやアパート等の共同住宅出入口付近などに散見される立ち入り禁止の表示と特に変わったところはない。そうした共同住宅においても,しばしば立入禁止の表示に反して,集合郵便受けや玄関ドア郵便受けに商業的宣伝ビラ,時にはいかがわしい内容が記載されたいわゆるピンクチラシが投函されていることもあるが,おおむね放置されているのが現状である。
  以上の諸点に照らせば,禁止事項の貼り札は,外見上,立ち入り禁止につきさほど強い警告を与えるものとはいえず(現に,前述のとおり,部外者が宗教の勧誘のために玄関ドアまで来たのは貼り札が貼られた後のことである.),この貼り札の存在が,被告人らに対して,直ちに,ビラ投函のための立ち入り行為が許されないとの認識を与えるものとはいえない。

 
 さて、ここで住居侵入における「他人の看守する建造物」のリーディングケースであるとされる最判S59.12.18に目を向けてみよう。これは京王電鉄吉祥寺駅構内の通路でビラ配布と拡声器による演説を行った行為が住居侵入に問われたものだ。この判決において有罪判決の決定打となったのは「入り口付近の立て看板」と「夜間は施錠される」ことによる「事実上の管理」認定(なお、通説は立て看板や張り紙だけでは事実上の管理に足りるとしない)だった。で、マンションの構造は以上に引用したとおりだ。敷地に門扉がないばかりか建造物自体にも通路・階段への侵入を遮断するものがない。
 これでは、最判S59.12.18よりも古い東京高判S38.3.27(注:同じような駅舎内の事件だがこちらは国鉄であり構内は国有財産である)を引くまでもなく「他人の看守する建造物」の一部としての「事実上の管理」をストレートに認定するにはちぃっとばかし苦しいだろう、というのが私の疑問なのだ。
 もちろん、真摯に活動しておられる自衛官の方々、その家族の方々がビラ配りを理由とする敷地内侵入者に対して脅威と不快を持っておられることはわかっている。自らに敵意を持つ集団が住居の至近をうろうろしポストに得体の知れないものを放り込んでいくのだから(もっともそれは道路から門扉までの間に広い庭を持たない、ほとんど全ての一戸建てにも言えることだが!)

 しかし、構成要件の拡大と恣意的運用(「摘発→可罰的違法の次元で不処罰として片づける」ハッタリ見せしめ的流れを含む)傾向は、居住者の意思とビラ配りの対立とは別の問題として考える必要があると私は考えるのである。だからこそ、私自身可罰的違法性の概念を支持する立場でありながらも、安易すぎる可罰的違法での処理よりは、どちらの結果であってももう少しましな判決を(正直いうと、最高裁まで逝って、門扉やシャッターのない建造物の「事実上の管理」について明確なメルクマールをもらってこい!)、と思うのだ。

 構成要件の拡大と恣意的運用は、サヨク、左翼、ウヨク、右翼といった政治思想団体だけの問題ではない。最近おバカさんな人々のおかげで大変なヲタを筆頭に、全ての民衆にとって全くヒトゴトではないのだ。それぞれ自分の所属するコミュニティに照らして、「仮に政府与党が変わっても」、今現在の肯定否定意見と同じことを言っているか考えてみてほしい。

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