理想と現実

神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)

神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 須賀しのぶ作品の魅力は、理想への向き合い方と現実に対するたくましさがともに美しいことにある。だからこそ、今の依存と成り行き任せのコバルトを粉砕することに期待する作家としてなら俺は須賀しのぶを筆頭にあげる。
 前田珠子もライフワークたる破妖をかっちり始末付ける気があるなら今のコバルトを粉砕できないこともない作家だと思うのだが、正直また完結できないんじゃないかと思っている。実のところ破妖は人と魔性の対立構造が分析できるともろにジェンダー論的な作品なのだが、ジェンダー論の研究者でさえ本質を見誤るくらいには良くできた「少女小説」なのである。