たしかにこれは黒麻生だ。

ホワイト・ファング―狼よ、月影に瞑れ (トクマ・ノベルズEdge)

ホワイト・ファング―狼よ、月影に瞑れ (トクマ・ノベルズEdge)

 眉村を思い出させる旧来のジュブナイルSFと見せかけて夏見を彷彿とさせるデストピア。旧来のジュブナイルと違うのは革命幻想もお題目の価値もなく、偽善は偽善、利己主義は利己主義、二重基準二重基準として容赦なく、執拗に抉られること。それでもぶれない者の「凄味」が麻生の持つ最大のスパイス。
 ああ、たしかに麻生だ。これこそ俺が待っていた、あの頃の麻生だ。部分的にはそう思う。
 ただ、俺が気に入らないのは、敵役に何一つ理がないことか。あの魅力的すぎた敵役達に並ぶ者を、今回の彼らは何一つ持ち合わせていない。すべてが「ナイトシリーズ」相当かそれにも及ばないの小物でしかないのが非常に悔しい。一人を除いて。
 そんなわけで化けるのと真相に期待しつつ次巻以降待機。


 しかし今までと同じ「3巻まで待つ」スタイルを取るには新書版は価格的に厳しいんですが、もう少し早くエンジンフル回転に持ち込んで欲しいんですがねえ麻生さん。